電子手形とは?でんさいの仕組み
「電子手形」は通称で、実体は電子記録債権
法律上、「電子手形」という名前の金融商品はありません。 一般に電子手形と呼ばれているのは、電子記録債権法にもとづく電子記録債権で、手形の代わりとして使われるものです。 その代表が、でんさいネットが取り扱う「でんさい」です。 でんさいネットは全銀協が100%出資して設立した電子債権記録機関で、でんさいネットの記録原簿に記録されることで、でんさいの権利が発生したり移ったりします。 紙の手形のように「用紙を渡したら成立する」わけではなく、記録されて初めて効力が出る点が大きな違いです。 電子債権記録機関はでんさいネット以外にもあり、他の機関が扱う電子記録債権にはそれぞれ別のサービス名が付いています。 そのため、取引先から「電子手形で払いたい」と言われたときは、どの記録機関のサービスなのかを最初に確認すると、行き違いを防げます。手形の振出・裏書・取立に当たる3つの手続き
でんさいの取引は、手形の動きとほぼ対応する3つの手続きで進みます。| 紙の手形 | でんさい | 内容 |
|---|---|---|
| 振出(手形を作って渡す) | 発生記録請求 | 支払う側がインターネットバンキングなどで、受取先の利用者番号・決済口座・金額・期日を入力して請求する |
| 裏書譲渡(手形を第三者に渡す) | 譲渡記録請求 | 受け取った側が、別の相手に債権を譲る。原則として譲渡人が保証人になる |
| 取立(銀行に取り立てを頼む) | 口座間送金決済 | 支払期日になると、支払う側の口座から受取側の口座へ自動で送金される |
紙の手形との違い
コスト、リスク、資金化のタイミングを比べる
でんさいネットが公開している情報から、違いを表にまとめました。| 項目 | 紙の手形 | でんさい |
|---|---|---|
| 印紙税 | 手形用紙・印紙・郵送などの費用がかかる | 手形と異なり印紙税は課税されない。費用は金融機関に支払う手数料が中心 |
| 紛失・盗難 | 現物のため、第三者に渡るリスクがある。事情を知らない第三者に渡っても、振出人は支払義務を負う | 現物がなく、紛失・盗難のリスクが解消される |
| 取立 | 支払呈示期間を過ぎると、金融機関への取立依頼ができなくなる | 支払期日に自動入金されるため、取立の失念が起きない |
| 資金化 | 交換日以降(支払期日の翌営業日以降) | 支払期日の当日から資金を使える |
| 金額 | 手形ごとに額面が決まる | 1円以上100億円未満(日本円のみ)で、必要な分だけ分割して譲渡できる |
| 支払期日 | 振出人が定める | 発生記録日の3銀行営業日後から10年後の応当日まで |
| 災害時 | 郵送の遅れや店舗の機能停止で、受け渡しができない場合がある | バックアップシステムにより、業務の継続が可能とされている |
印紙税とコストの考え方
紙の手形では、手形用紙代、印紙税、郵送料のほか、金額の打鍵・押印・封入といった作業にかかる人件費も発生します。 でんさいネットは、でんさいなら印紙税や郵送料が不要で、費用は金融機関に支払う手数料が中心になると説明しています。 受け取る側にも違いがあります。 でんさいで代金を受け取って領収書を出すとき、「上記金額をでんさいで受領いたしました」のように、でんさいで受け取った旨を書けば、その領収書に収入印紙を貼る必要はありません。 でんさいは金銭や有価証券ではなく電子記録債権だからです。 反対に、でんさいで受け取った旨の記載がない領収書は、印紙税法上の課税文書(第17号の1文書)に当たります。- でんさいネットの事例では、建設業のA社が年間400万円以上のコスト削減になったと紹介されている。ただし、これは1社の事例で、手形の発行枚数が多い会社の話
- 受取側の事例(卸売業D社)では、領収書の印紙代と郵送料が不要になり、年間10万円の削減とされている
- 自社の削減額は、でんさいネットの「でんさいコスト診断」で試算できる
経理の事務はどう変わるか
でんさいネットは、手形とでんさいの事務の流れを比較しています。 支払う側の手形では、手形帳の在庫確認、現物の保管、チェックライターでの金額打鍵、印紙の貼付、押印、封筒詰め、郵便局への持ち込みという順に作業が続きます。 この途中で、印字のズレや金額の入力ミス、封筒の入れ間違い、郵送中の紛失が起きる可能性があります。 でんさいでは、支払情報をインターネットバンキングなどで入力し、上席者が承認すれば作業が終わります。 受け取る側の手形では、受領、内容確認、領収書の発送、保管、金融機関への取立依頼が必要です。 支払呈示期間を過ぎると取立を依頼できなくなるため、取立を忘れるリスクもあります。 でんさいなら、通知メールを受けて債権の内容を確認するだけで、支払期日には口座へ自動で入金されます。 でんさいネットの事例では、卸売業のB社が、支払方法のうち金額ベースで97%を手形からでんさいに切り替え、事務にかかる時間が10分の1になったと紹介されています。 これも1社の事例で、どの会社でも同じ結果になるとは限りません。
スグレタブログ編集部紙の手形はいつまで使える?2027年3月31日までの動き
電子交換所の交換廃止は2027年3月31日
全銀協は2026年6月18日、電子交換所における手形・小切手の交換廃止時期を「2027年3月31日」と明確にしました。 あわせて、手形・小切手以外の証券も含めた電子交換所での交換自体は、2029年6月末(6月29日)で廃止すると決めています。 背景には、手形・小切手機能の全面的な電子化に向けた自主行動計画があります。 この計画は、2026年度末までに電子交換所での手形・小切手の交換枚数をゼロにすることを最終目標にしています。 交換枚数がゼロになる前提で、でんさいや銀行振込への切り替えが各社に求められているということです。2027年4月1日から手形が使えなくなるわけではない
全銀協は、2027年4月1日から手形・小切手が使用できなくなるものではない、と注記しています。 ただし、4月1日からは電子交換所を介さない決済になります。 各金融機関が郵送などで相対決済をする必要があるため、金融機関の判断で、手形・小切手の取扱いの可否などが変わる可能性があります。 実際、全銀協は、金融機関によっては9月30日に最終振出期限を設けており、10月1日以降は原則として当座勘定からの支払いができなくなる、と案内しています。 でんさいネットの周知チラシでも、多くの金融機関が2027年3月を待たずに、手形帳・小切手帳の発行終了や最終振出期限の設定など、取扱いを縮小する動きを示していると説明されています。- 手形・小切手をまだ使っている会社は、取引金融機関に「最終振出期限」と「手形帳・小切手帳の発行終了日」を確認する
- 受取手形を持っている会社は、支払期日や取立の取扱いがどうなるかも合わせて確認する
- 取引先が紙の手形で払ってくる場合は、でんさいや振込への切り替えを相談する
でんさいの導入の流れ
利用できる条件と審査
でんさいは、法人、個人事業主、国・地方公共団体が利用できます。 ガイドブックには、次のような条件が挙げられています。- 本邦居住者であり、反社会的勢力に属さないなど、利用者として適格であること
- 金融機関に決済口座があること
- 破産・廃業などをしていないこと
- 債務者(支払う側)として使う場合は、金融機関の審査を受けていること
支払う側が準備すること
でんさいネットは、支払利用の進め方を4つのステップで説明しています。- 利用の検討:でんさいに切り替えた場合のコストを試算し、取引先の利用状況や社内の事務・会計システムを確認して、社内で決定する
- 契約と取引先への案内:取引金融機関とでんさいの利用契約を結び、取引先に切り替えの案内状を送って回答をまとめる
- 利用準備:でんさいを取り扱う権限者を設定し、社内の事務・会計システムを整える
- 支払開始:いきなり全取引を切り替えず、グループ会社や親しい取引先に試しに支払ってから本格的に始める
受け取る側が準備すること
受け取る側の手順も4つのステップです。- 取引先から案内状が届く:手形からでんさいへの変更の案内であることを確認する
- 利用の検討:切り替えた場合のコストを試算し、社内の事務・会計システムを確認して決定する
- 契約と回答:取引金融機関とでんさいの利用契約を結び、取引先に回答書を返す
- 利用準備と受取開始:権限者を設定し、受取を始める
でんさいライトの料金と上限
インターネットバンキングの契約がない小規模な事業者向けに、でんさいネットは「でんさいライト」を用意しています。 でんさいネットが提供する画面に直接アクセスして使う方式で、初期契約料と月額基本手数料はありません。 利用1件ごとの従量料金は、でんさいネットの公表では次のとおりです。| 手続き | 手数料(税込) | 税抜 |
|---|---|---|
| 発生記録 | 264円 | 240円 |
| 譲渡記録 | 132円 | 120円 |
| 分割(譲渡)記録 | 264円 | 240円 |
| 変更記録 | 132円 | 120円 |
| 支払等記録 | 132円 | 120円 |
| FAX通知 | 44円 | 40円 |
手形・でんさい・銀行振込のどれに切り替えるか
取引の形に合わせて選ぶ
全銀協とでんさいネットは、紙の手形・小切手の切り替え先として、でんさい等の電子記録債権と、インターネットバンキングによる振込の2つを挙げています。 どちらが合うかは、取引の中身で変わります。- 支払いまでに期間を置きたい(手形のように期日を決めて払いたい)場合は、支払期日を指定できるでんさいが近い使い方になる
- 取引の件数や金額が小さく、期日を後ろにずらす必要がない場合は、インターネットバンキングの振込でも足りることがある
- インターネットバンキングの契約がなく、利用回数も少ない場合は、でんさいライトが選択肢になる
- 受け取った手形を回して仕入先に払ってきた場合は、譲渡や分割ができるでんさいのほうが、これまでの使い方を引き継ぎやすい
2027年3月31日から逆算した進め方
利用申込には金融機関の審査があり、取引先への案内と回答の取りまとめにも時間がかかります。 審査にかかる期間は金融機関によって違うため、期間の目安は取引金融機関に聞いてください。- 取引金融機関に、手形帳・小切手帳の発行終了日と最終振出期限を確認する
- 主な取引先がでんさいの利用者かどうかを、でんさいネットの利用状況検索サービスで調べる
- でんさいコスト診断で、切り替えたときのコストを試算する
- 取引金融機関へ利用を申し込み、審査と契約を済ませる
- 取引先に案内状を送り、回答を取りまとめる
- 少数の取引先から試しに運用し、問題がなければ対象を広げる
資金化の方法は3つ。譲渡・分割・割引
支払期日の前に現金が必要なとき
でんさいは、支払期日になるまで現金にならないのが基本です。 期日前に資金が必要な場合は、次の方法があります。- 譲渡:受け取ったでんさいを、仕入先などへの支払いに回す(手形の裏書譲渡に当たる)
- 分割譲渡:でんさいの一部だけを分けて譲渡する(手形にはない機能)
- 割引:金融機関にでんさいを譲渡して、支払期日前に資金化する
分割譲渡の計算例
ガイドブックには、次の例が載っています。 額面700万円のでんさいを受け取った会社が、資金繰りのために300万円分だけを取引金融機関へ分割譲渡(割引)するケースです。 この場合、元のでんさい(親債権)は400万円に減ります。 新しくできた300万円のでんさい(子債権)は金融機関に譲渡され、譲渡した会社が保証人として記録されます。 子債権は必ず譲渡する必要があり、親債権は手元に残ります。 譲渡・分割・保証の回数には、原則として制限がありません。
スグレタブログ編集部保証と遡求に注意
でんさいを譲渡すると、原則として譲渡した人が保証人になります。 手形の遡求権と同じように、最初の債務者が支払えない場合、でんさいを持っている人は、すべての保証人に支払いを求められます。 つまり、でんさいを他社へ譲渡したあとも、債務者が支払えなければ、譲渡人が代わりに支払う義務を負う可能性があります。 割引で金融機関に譲渡した場合も同じです。 取引先の支払能力は、でんさいを受け取る時点で確認しておく必要があります。デメリットと注意点
支払不能になると2年間の取引停止
でんさいには、手形の不渡りに当たる「支払不能処分制度」があります。 支払期日に資金が足りず、入金できなかった場合、原則として支払不能になります。 6か月以内に2回支払不能になった債務者は、債務者としてのでんさいの利用と、参加金融機関での貸出取引が2年間停止されます。 でんさいの支払不能は、手形の不渡りとは回数が通算されません。 同じ日に複数のでんさいが支払不能になった場合は、1回として数えられます。 受け取る側が支払不能を記録で確認できるのは、支払期日から3銀行営業日が過ぎた日以降です。 期日に入金がないときは、取引金融機関に入金状況を確認するか、債務者に直接問い合わせます。導入前に確認しておきたい点
- 取引先もでんさいネットの利用者になっていないと使えない。取引先の利用状況を先に確認する必要がある
- 手数料・取扱時間・割引の可否は金融機関で異なる。全参加金融機関で利用できる時間帯は、平日9時から15時のコアタイムとされている
- 譲渡や分割は、支払期日の3銀行営業日前までに行う必要がある。直前の資金化には向かない
- 変更や取消は、受け取ってから5銀行営業日が過ぎると、関係者全員の承諾が必要になる
- 利用者間の契約は不要でも、金融機関の審査を受ける必要がある。審査の結果によっては、債務者として使えない場合がある
- 決済資金を支払期日までに用意できなければ、支払不能になる。決済資金の準備期限は金融機関に確認する
ファクタリングなどの資金調達との違い
でんさいは決済手段、ファクタリングは債権の売却
でんさいは、支払いの手段です。 受け取ったでんさいを期日前に現金化したいときに、割引や譲渡を使う、という位置づけになります。 一方、売掛金を専門の会社に売って現金化するファクタリングは、別の資金調達の方法です。 でんさいを割引に出すのとファクタリングを使うのとでは、相手(銀行などの金融機関か、ファクタリング会社か)も、取引先への知られ方も、費用の決まり方も異なります。 売掛金の入金までの資金繰りを考えている場合は、次の記事で、仕組みと注意点を整理しています。
銀行融資とファクタリングの使い分けや、公的な相談窓口は、こちらにまとめています。

取引を電子化するときは、請求書や契約書の電子化も同時に進める会社が多くなっています。印紙税がかからない理由は、こちらで解説しています。

どの方法を選ぶ場合も、費用の総額と、取引先に与える影響の両方を確認してから決めてください。
困ったときの相談先
でんさいの導入や手形の切り替えで迷ったときは、次の窓口に相談できます。- 取引金融機関:利用申込、手数料、割引の可否、手形帳の発行終了日や最終振出期限は、まず取引金融機関で確認する
- でんさいネット(株式会社全銀電子債権ネットワーク):制度や仕組みの確認。公式サイトに「よくあるご質問」やコスト診断がある
- よろず支援拠点:国が設置している中小企業向けの無料相談窓口で、経営上の相談に何度でも対応している
電子手形のよくある質問
電子手形とでんさいは同じものですか?
一般に「電子手形」と呼ばれているものの中心は、でんさいネットが扱う電子記録債権「でんさい」です。ただし電子債権記録機関はほかにもあり、他の機関の電子記録債権には別のサービス名があります。取引先から提案されたときは、どの記録機関のサービスかを確認してください。
2027年4月1日から紙の手形は使えなくなりますか?
全銀協は、2027年4月1日から手形・小切手が使用できなくなるものではないと注記しています。ただし電子交換所での交換は2027年3月31日で廃止され、金融機関の判断で取扱いが変わる可能性があります。金融機関によっては、すでに最終振出期限を設けています。
でんさいは必ず割引できますか?
必ずできるわけではありません。割引の取扱いの可否、審査の基準、所要時間は金融機関によって異なります。割引料率などの費用も金融機関が定めるため、資金が必要になる前に取引金融機関へ確認してください。
個人事業主でもでんさいを使えますか?
でんさいネットの利用資格には、法人、個人事業主、国・地方公共団体が含まれます。ただし、本邦居住者であることや決済口座があることなどの条件があり、支払う側として使う場合は金融機関の審査も受けます。
でんさいで代金を受け取ったとき、領収書に印紙は必要ですか?
「上記金額をでんさいで受領いたしました」など、でんさいで受け取った旨を領収書に書けば、収入印紙は必要ありません。この記載がない領収書は、印紙税法上の課税文書に当たります。
支払期日になっても入金がないときはどうすればよいですか?
取引金融機関に入金状況を確認するか、債務者に直接問い合わせます。支払期日中に入金がない場合は原則として支払不能になりますが、記録として確認できるのは支払期日から3銀行営業日が過ぎた日以降です。


