抽選アプリやプレゼントキャンペーンを実施する際、多くの企業が見落としがちな重要な法的規制があります。
景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)は、消費者を保護し公正な競争を促進するため、景品類の提供や広告表示に厳格な制限を設けています。
近年、デジタルマーケティングの普及により、抽選アプリを活用した販促活動が増加していますが、法規制を理解せずに運用すると、措置命令や課徴金納付命令といった重い制裁を受けるリスクがあります。
本記事では、抽選アプリの運営において景品表示法をクリアするための具体的な対策を詳しく解説します。
景品表示法の基本理解
景品表示法は、消費者が商品やサービスを自主的かつ合理的に選択できる環境を守ることを目的とした法律です。
過剰な景品提供による競争の過熱を抑え、消費者が正しい情報に基づいて選択できる環境を整えるために制定されました。
景品表示法が規制する2つの柱
景品表示法は主に2つの側面から消費者を保護しています。
事業者が商品やサービスの品質、内容、価格などを偽った「表示」を厳しく規制することと、過大な景品類の提供の規制です。
抽選アプリに適用される景品規制
景品表示法においては、抽選により当選者を選ぶことは懸賞に該当し、景品規制が適用されます。
抽選アプリは典型的な懸賞サービスであるため、必ず景品表示法の規制対象となります。
景品類の定義と適用要件
抽選アプリが景品表示法の規制を受けるかどうかは、提供するものが「景品類」に該当するかによって決まります。
景品類とは、以下の要件をすべて満たすものをいいます。
景品類の3つの要件
景品類に該当するための要件は以下の通りです。
1.顧客を誘引するための手段であること(方法を問わない)
2.事業者が自己の供給する商品または役務の取引に付随して、相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であること
3.物品、金銭、有価証券、きょう応等の経済的価値があるもの
取引付随性の判断
商品・サービスの利用・購入時にポイントを付与するケースはもちろん、利用・購入前でも、勧誘の手段として先にポイントを無償付与するときは、この要件を満たします。
一方で、自己の供給する商品又は役務の購入者を紹介してくれた人に対する謝礼も取引に付随しません。
抽選方式による景品規制の分類
抽選アプリの法的位置づけは、実施方法によって大きく異なる規制が適用されます。
景品表示法に基づく『景品』の考え方では、『景品』の提供の仕方によって「総付景品」、「一般懸賞」、「共同懸賞」、「オープン懸賞」の、4つのタイプに分類しています。
一般懸賞(クローズド懸賞)の規制
商品やサービスの購入・利用を条件として参加できる懸賞が一般懸賞です。
一般懸賞では以下の制限があります:
– 景品類の最高額:懸賞に係る取引の価額の二十倍の金額(当該金額が十万円を超える場合にあっては、十万円)を超えてはならない
– 景品類の総額:当該懸賞に係る取引の予定総額の百分の二を超えてはならない
オープン懸賞の特徴
商品・サービスの購入・利用を条件とせず、誰でも自由に応募できる「オープン懸賞」は規制対象外となっています。
オープン懸賞は、商品を買ってない人でも参加できるキャンペーンのことです。2024年10月の改正で、景品の上限金額はなくなりました。
2024年法改正の影響と新たな規制
景品表示法は近年大幅な改正が行われ、抽選アプリ運営者にとって重要な変更点があります。
2023年・2024年に改正する景品表示法は、多くの業界に影響を与えます。
直罰規定の導入
2024年10月から施行された直罰規定で、法律に違反した場合の罰則がより厳しくなりました。
優良誤認表示を行う事業者に対して、罰則が強化されました。
従来は措置命令を経てからの制裁でしたが、新設された罰則では、事前の措置命令を経ずに刑罰として100万円以下の罰金が科せられます。
ステルスマーケティング規制の強化
2025年にはステルスマーケティング規制の明確化や有利誤認表示の範囲拡大など、さらなる改正が予定されています。
抽選アプリにおいても、広告性の明示や透明性の確保がより重要になっています。
コンプライアンス体制の構築方法
抽選アプリの適法運営には、組織的なコンプライアンス体制の構築が不可欠です。
景品表示法は法律のため、仮に違反すればコンプライアンス違反であることになります。
社内チェック体制の整備
広告表示における不当表示を防ぐには、社内規定の見直しが重要です。
具体的には以下の対策が必要です:
– 景品表示法に関する知識を持った従業員のみが広告表示内容の作成や決定をする
– 消費者から寄せられた意見や問い合わせをもとに表示内容のチェックや改善を行う
– 万が一の際に迅速に回収できる体制を構築
抽選の透明性確保
あらかじめ告知した抽選方法とは別の方法で当選者を選定することは、参加者に疑念を抱かせることになるので適切ではないでしょう。
また、実際の当選者数が告知した当選者数に満たないときなどは、取引条件に関する不当表示として景品表示法第5条第2号違反となるおそれがあります。
記録管理と証拠保全
抽選アプリでは以下の記録を適切に管理する必要があります:
– 抽選プロセスの記録
– 当選者選定の証跡
– 景品提供の実績
– 利用規約の変更履歴
違反時のリスクと対策
景品表示法違反は企業にとって重大なリスクを伴います。
事業者が景品表示法に違反した場合に考えられるリスクは、違反の事実が公表されることで社会的信用が失われることだけでなく課徴金制度が適用されることが挙げられます。
具体的な制裁措置
景品表示法違反時の制裁措置は以下の通りです:
– 措置命令による違反行為の是正指示
– 課徴金納付命令(過去最高額の課徴金納付命令(16億5594万円)が発出されたことがあります)
– 刑事罰(直罰規定により100万円以下の罰金)
予防的対策の重要性
会社が景品表示法の規定を守るためには、法律を守ることのための準備をしっかり整えることが絶対に必要です。
景品表示法を遵守し、不当表示を未然に防ぐためには、事業者側の積極的な取り組みが不可欠です。
まとめ
抽選アプリの法的コンプライアンス対策において、景品表示法の理解と遵守は経営上の重要課題です。
景品類の定義、一般懸賞とオープン懸賞の区別、金額上限の把握など、基本的な規制内容を正確に理解することが第一歩となります。
2024年の法改正により直罰規定が導入され、違反時のリスクがより深刻になったため、予防的なコンプライアンス体制の構築が急務です。
抽選の透明性確保、社内チェック体制の整備、適切な記録管理を通じて、法令遵守と効果的なマーケティング活動の両立が可能になります。
継続的な法制度の変化に対応するため、定期的な社内研修や専門家との連携により、常にコンプライアンス体制をアップデートしていくことが重要です。


